ゲームはチック症状を増悪させるのでしょうか?

チックの症状が悪化するのはどんなとき? にも記載したように、チックの症状が増悪するのは、

  • 本人の緊張が増加していくとき
  • 本人の強い緊張が解けたとき
  • 楽しいことで気持ちが高ぶったとき(興奮状態にあるとき)

とされています。

ゲームをしているときに症状が増悪するとした場合、この3つめに相当すると思われます。

では、ゲームはさせてはいけないのでしょうか?

ゲームはチック症状を増悪させる

携帯ゲームはチック症状を増悪させ、ゲームを制限すると改善する。
「チックはストレスが原因」と言われたことから、できるだけストレスを与えないようにと子どもに好きなだけゲームをさせ、結果不規則な生活に陥り、症状が増悪して来院する症例もある1)

不規則な生活に陥るまで、好きなだけやらせるのはもちろんNGとして、やはりゲームがチック症状を増悪させるようです。

さらに制限すると改善するということからも、ゲームが症状によくないことがわかります。

この文献を書かれた先生とお話をしたことがありますが、とにかくゲームはNG!ポケモンGOだろうがマリオだろうが、ゲームはダメ!とのことでした。

それは単にチック症状を増悪させるのみでなく、あとで記述する脳の発達にも良くないからだということでした。

とはいうものの、周りの子どもがゲームをしていて、自分だけできないというのも難しいのかもしれません。

このような別の専門の先生の記述もありました。

もともとチックは気分の変化で増減するので、ゲームで増えることは多いが、一時的なもので、やめれば元に戻る。これについてはテレビやゲームを控えたほうがよいという意見もあるが、ゲームをすることでチックが悪化したり経過が長引いたりするというエビデンスもないので、ゲームをどのくらい許すかは、学習との兼ね合いなどで決めればよいと私は説明している2)

これも親としては気になっていたところです。

つまり、ゲームをして症状が悪くなると、そのまま悪くなったままになるのか?それは一時的なのか?というところです。
そのまま悪くなったままならば、ゲームは絶対に与えたくないですよね。

この記述によると、ゲームで症状が悪くなっても、ゲームがきっかけで悪くなったままというエビデンスはないので、学習との兼ね合いで許せばいいということでした。

ある程度ならば、ゲームを与えても構わないということですね。

ただし、一時的とはいえ、ゲームをするとチック症状が悪くなるというのはやはり一般的なようです。

個人的な経験では、子どもにゲームを与えて症状がそこまで悪くなっているような印象は受けませんが、やるゲームがもっと激しいゲームになったらそうではなくなるのかもしれません。

ゲームをすると脳内のドーパミンの放出が増える!

チックと言えば、脳内のドーパミン量が多いことが関与していることがわかっています。

ゲームをすることで、そのドーパミンの放出が増えるというデータがあります。

1998年にNatureに掲載された論文によると、

ゲーム開始前と50分間ゲームのプレイ後で、脳内の線条体と呼ばれる領域で、ドーパミンの放出が2倍に増えた。

という報告があります。

覚醒剤(アンフェタミン)を0.2mg/kg 静脈注射したときのドーパミンの放出増加が2.3倍であり、ほぼそれに匹敵する量であることがわかります。

たった50分のゲームが、覚醒剤並みのドーパミンを放出させるということです。

基本的にドーパミン量が増えるとチックの症状は増えると考えられていますので、ゲームはやはり良くないことがわかりますね。

一時的な症状の増悪だけではないゲームの怖さ

大人と違い、子どもの脳は日々発達しています。

これから子ども達は、学校に行ったり、試験を受けたり、受験したり、就職したりとたくさんの難関・試練を乗り越えていく必要があります。

成果を出す(報酬を得る)には苦労をしなければなりません。
人生、楽しいことばかりではありません。

大人は、そんなことはわかっています。

ところがゲームでは簡単に即座に報酬を得ることができます。
これはお金という意味ではなく、成果という意味の方が近いでしょうか。
ゲームの世界のノルマは割と簡単にこなすことができます。

実は、ゲームに没頭して、ノルマをこなしていくことは、実生活でも役立つのではないかと私は考えていました。

瞬発力が上がったり、問題解決能力が上達するのではないかと思ったためです。

ところがそうではないようです。

ゲームをしている子どもは、脳の報酬系と呼ばれる部位に異常が起こります。

つまり、本来実世界では成功したり、成果を出すには苦労が伴うものですが、この思考が破綻してしまうということです。

すると、してはいけないことにブレーキを掛け、しなければならないことにアクセルをふかすということができなくなり、目先の興奮や楽しさのみを求めるようになります。

ここまでくるとゲーム依存と呼ばれる状態ですが、ゲームにはその恐ろしさがあるということです。

さらに、チックと関連のあるADHDの子どもはゲーム依存になりやすい3)と言われており、ゲームを与えることにはチックがない子どもよりもより慎重にならなければなりません。

最後に

ゲームやネット、スマホはこれから子ども達が生きていく上で切っても切り離すことができません。
全く与えないということは事実上不可能です。

やりたいというなら、一時的に症状が増悪しても、少しくらいゲームくらいやらせてもいいのではないかと考えていましたが、調べていくうちに、

「ゲームは恐ろしい。ゲーム依存にだけは絶対にさせてはいけない。」

と思うようになりました。

外で遊ぶことの楽しさ、自然の中で過ごす楽しさ、家族の密なコミュニケーションが大事であり、親がスマホ依存になっていては絶対にダメだと痛感しました。

インターネット・ゲーム依存については、こちらの書籍がオススメです。

 

1)こころの科学 No.194/7-2017 P19-20 幼児期から学童期のチック・トゥレット症 星野恭子
2)こころの科学 No.194/7-2017 P48-49 チック・トゥレット症の治療・支援①心理教育 星加明徳
3)インターネット・ゲーム依存症 ネトゲからスマホまで (文春新書)  P145