多くのチック症は収まっていくので、放置しておけば良いとさまざまな書籍やネットには記載があります。
「温かい無視」が一番であると。
とはいうものの、目の前でチック症状が出ている子供を前に、無視と言われても・・・と思うのが当事者です。
私の息子も音声・運動チックともにあるので
と言うのが本音です。
とは言っても子供に薬はできるだけ使いたくないのもまた本音です。
薬で怖いのは副作用ですよね。
とくにチック症やトゥレット症候群は脳の病気と言われているため、使う薬も脳に作用します。
今回は、チック症やトゥレット症候群の薬物療法にはどのようなものがあり、副作用にはどのようなものが報告されているのかについてまとめました。
チック症やトゥレット症候群に薬物療法を行うのはどんなとき?
そもそも薬物治療を行うのはどんなときでしょうか?
少なくとも軽症では薬物治療を行うべきではありませんし、チックやトゥレット症の治療として薬物治療が第一選択になることはありません。
あくまで、
- 家族ガイダンス
- 心理教育
- 環境調整
といった非薬物療法が治療の基本であり、第一選択となります。
実際にトゥレット症の中でも、薬物利用が必要となる小児は10%程度と言われています7)。
薬物治療を開始する目安としては「機能の障害をきたすような中等症から重症のチックと併発症」とされています。
「機能の障害」というと難しいですが、「症状が出て、日常生活に困る程度」ということです。
では、日常生活に困る程度というのは具体的に
- 食事の時に飲み物や食べ物をチックが原因でこぼしてしまう。
- 学校で汚言が出ることが心配で不登校になってしまう。
といったことが挙げられます7)。
ただし、これには非常に個人差があり、一概にどうだから薬物治療の対象になるというものではありません。
チック症やトゥレット症候群の薬物療法
治療と言っても根本的な解決になるわけではなく、症状を抑えるための治療となります。
使われる薬には以下のものがあります。
- 抗精神病薬
- 抗不安薬
- 抗うつ薬
- 中枢刺激薬
- 気分安定薬
- 漢方薬
- その他
抗精神病薬
チックやトゥレット症候群は精神病ではありませんが、効果的であるということで抗精神病薬が使われることがあります。
用いられる薬には、
- ハロペリドール(セレネース®︎、リントン®︎など)
- リスペリドン(リスパダール®︎)
- ピモジド(オーラップ®︎など)
- アリピプラゾール(エビリファイ®︎)
- クロルプロマジン(コントミン®︎、ウインタミン®︎)
といったものがあります。
日本で最もよく用いられるのは、第3世代抗精神病薬に分類されるアリピプラゾールで、その次にリスペリドンです8)。
アリピプラゾール
非定型抗精神病薬で、第3世代抗精神病薬に分類されます。
使い方としては、1.5~3mg/日から開始して漸増し、10mg/日前後で一定の効果が見られることが多い8)とされます。
先ほど述べたように、このアリピプラゾールが第一選択、リスペリドンが第二選択となることが多い8)ようです。
ハロベリドール
中でも最も有名なのは、ハロベリドールです。
定型抗精神病薬です。
これはピモジドと同様にドーパミンD2受容体阻害薬に分類されます。
文字通りドーパミン神経系の活性を抑える作用があります。
チック症状はドーパミン系が亢進(普通よりも活発になっている)しているときに起こることが推測されていますので、このドーパミン神経系を抑えることによりチック症状を抑えることができるというわけです。
ただし、注意点があります。
それが副作用です。
ドーパミン神経系を抑えることで、ドーパミン神経系が発達に関与している大脳半球の前頭葉という重要な部位の発達も抑えると言われています。
とくに10歳代半ばまではこの傾向にあります。
ですので、この年齢以後に使うのは問題が少ないと考えられますが、これよりも小さなお子様にこの薬を使うのは副作用を考慮するとお勧めできないということになります。
できればこの薬は15歳以降〜成人年齢になってから使用することが望ましいとされています1)。
ピモジド
ハロペリドール同様にドーパミンD2受容体阻害薬に分類されます。
比較的副作用が少ないためこちらもよく使われているようです。
ただし、心電図異常が報告されている3)ため、心電図の定期的なチェックが必要となります。
またSSRI※(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)との併用は禁忌4)とされています。
※SSRIはSelective Serotonin Reuptake Inhibitorsの頭文字をとったもの。
抗精神病薬による短期的な副作用は?
大脳の前頭葉の発達に差し障りがあるのではないかという長期的な副作用に加えて、短期で出る副作用には以下のようなものがあります。
- 不安
- 注意力・集中力の低下
- 眠気
- 気分の変化
- 攻撃性
- アカシジア(足を動かさずにはいられないような感じ)
- 食欲亢進
- ジストニア(筋肉が強く収縮する)
- 錐体外路系(振戦、固縮)
- 便秘
- 体重増加
- 遅発性ジスキネジア(口や舌に見られる勝手に動く運動)
- 悪性症候群
ただし、子供の場合、使用する量が少ないため、副作用は出にくいとも言われています2)。
中でも重篤なものとしては、遅発性ジスキネジアと悪性症候群が挙げられます。
遅発性ジスキネジアは、抗精神病薬を内服し始めて3ヶ月以上経過したのちに出現することがある、自分では止められない体の動きで、口や舌に加えて、手が勝手に動くなどの症状があります。
悪性症候群は、抗精神病薬の内服する量を急に増やしたり減らしたりした際に1週間以内に起こり発熱、発汗、筋肉のこわばりなどが起こります。
抗不安薬
抗不安薬では、
- ロラセパム(ワイパックス®︎など)
が使用されることがあります。
抗不安薬は、主に強迫症状をもつチック・トゥレット症候群の子供に対して使用されます。
抗うつ薬
抗うつ薬では、
三環系抗うつ薬に分類される
- イミプラミン(トフラニール®︎など)
- クロミプラミン(アナフラニール®︎など)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)に分類される
- パロキセチン(パキシル®︎など)
が使用されることがあります。
これらの薬剤は、主にADHD(注意欠陥/多動性障害)や強迫症状をもつチック・トゥレット症候群の子供に対して使用されます。
三環系抗うつ薬の主な副作用としては、眠気、口渇、かすみ目、便秘、発汗といったもの5)が報告されています。
一方、比較的新しい薬剤であるはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は比較的副作用が少ないことで知られています。
中枢刺激薬
- クロニジン(カタプレス®︎など)
- グランファシン(インチュニブ®︎など)
- メチルフェニデート(コンサータ®︎など)
が用いられることがあります。
クロニジン
ノルアドレナリンに作用する薬で、血圧を下げる作用があるため高血圧に使われていたこともある薬です。
α2アドレナリン受容体作動薬です。
主にADHD(注意欠陥/多動性障害)をもつチック・トゥレット症候群の子供に対して使用されます。
血圧を下げる作用があるため、心電図、血圧、脈拍を定期的にチェックすることが必要です。
副作用には、眠気、めまい、気分の変化、徐脈などが報告されています5)。
また、この薬は急に中止すると、チック症状の増加や血圧が上昇してしまうことがあるため、急に中止しないようにすることが大事です5)。
グランファシン
こちらもクロニジンと同様にα2アドレナリン受動体作動薬に分類されます。
日本では2017年3月30日に子供のADHDに対する適応を得ました。
今後、ADHDを伴うチック・トゥレット症に対して使われる可能性があります。
メチルフェニデート
こちらも、主にADHD(注意欠陥/多動性障害)をもつチック・トゥレット症候群の子供に対して使用されます。
気分安定薬
気分安定薬では、
- カルバマゼピン(テグレトール®︎、テレスミン®︎など)
が使用されることがあります。
この薬剤は、鎮静作用もあり、抗けいれん薬としても知られている薬です。
漢方薬
漢方では、
- 抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
- 加味逍遙散(かみしょうようさん)
- 甘麦大棗湯(かんばくだいそうとう)
といったものが使用されることがあります。
ちなみに私の子供は、抑肝散加陳皮半夏を処方されたことがありますが、効果はほとんどありませんでした。
これらの漢方は症状が少ない場合には効果があることがあるようですが、処方してくれた医師も「気休めだけど」とおっしゃっていました。
注意点として、漢方だからと言って副作用がないわけではありません。
稀ではありますが、
- むくみ
- 間質性肺炎
- 肝障害
といった副作用を起こすことがあるので注意が必要です。
その他
その他、用いられることがある薬は以下の通りです。
- レボドーパ(ドパール®︎、ドパストン®︎など)
- トリヘキシフェニジル(アーテン®︎など)
- クロナゼパム(ランドセン®︎、リボトリール®︎など)
- ボツリヌス毒素(ボトックス®︎)
レボドーパ
L-dopaやL-ドーパなどと表記されることもあります。
パーキンソン病にも使用される薬です。
レボドーパはドパミンの前駆物質でドーパミンを補う作用があります。
チックはドーパミンが増えている状態で症状が出るのに、なんで増やすの?と思ってしまいますが、チックはドーパミン受容体が増えている状態でもありますので、
ドーパミンを少量増やす
→発現しているドーパミン受容体が減る。
→ドーパミンの作用が減る。
→チックの症状が減る。
という機序で効果があるようです。
トリヘキシフェニジル
こちらもパーキンソン病にも使用される薬です。
手の震えなどがある場合に用いられることがあります。
クロナゼパム
てんかんにも使用される薬です。
体の震えなどがある場合に用いられることがあります。
ボツリヌス毒素
こちらは内服薬ではなく、まぶたや顔面など筋肉が動くところに注射をします。
もともと限局性のジストニアという病気に使われてきましたが、チック、トゥレット症候群の眼瞼けいれん、首振り、汚言症に有効とされています。
汚言症の場合は声帯へ注射をします。
しかし、実際にこの治療を行なっているところは少数です6)。
最後に
チック、トゥレット症候群で用いられることがある薬剤についてまとめました。
随時記事を更新していきます。
普段処方される解熱薬などを含め、どんな薬剤にも副作用はあります。
ですので、飲まないに越したことはありません。
とはいえ、症状が強い場合は、医師と相談の上、薬剤を使う選択をしてみるのも良いかもしれません。
参考書籍)
チックをする子にはわけがある1)P142
チックとトゥレット症候群がよくわかる本 2)P92,4)P93
トゥレット症候群の子どもの理解とケア3)P56,5)P61,6)P63
こころの科学No.194/7-2017 7)P62 8)P64