チックの子どもの場合、とくに日常生活の過ごし方が治療や今後の併発症の予防に有効と考えられています。
自分の子供が今度どのように変化して行くのかは、自然に任せるしかないとか、薬物に頼るしかないなどと思いがちですが、「親が積極的に関与」していき「環境を整える」ことで症状を軽減させて行くことが可能であるということです。
そこで今回は、チック症の子供に対していかに親が積極的に関与して行くのが良いのかをまとめました。
睡眠時間を徹底すること
睡眠覚醒リズムが障害されてしまうと、寝る時間が遅くなり、結果起きる時間が遅くなります。
このことは、あとで説明する昼間の活動レベルを上げることの妨げとなってしまい、さらに悪循環を招きます。
ですので、とくにチックの子どもの場合、早寝早起きを徹底するべきと考えられています。
はっきりと目を覚ました状態である覚醒にはセロトニンが関与
目を覚ました状態にはセロトニン神経系が関与していると言われています。
ですので、はっきりと目を覚ました状態を維持するにはセロトニン神経系の活性を促す必要があります。
ところが、チックではこのセロトニン神経系の活性が通常よりも低下しています。
起きる時間が遅くなったり、睡眠不足になると、さらにこのセロトニン神経系の活性が落ちてしまいます。
また、このセロトニン神経系の活性の低下は、強迫性障害(OCD)と関連があり、その発症を予防する上でも、セロトニン神経系の活性を促すことが重要であることがわかります。
セロトニン神経系の活性を促すためには、睡眠のリズムをしっかりつけることが重要であるということです。
OCDを併発するチック・トゥレット症の薬物療法にもあるように強迫性障害(OCD)を伴ったチック症・トゥレット症の場合、セロトニン再取り込み阻害薬が使われます。
このことからも、薬を使わずに、セロトニン神経系の活性を維持するように日常生活で気をつけるべきなのです。
日中の活動レベルを充実させること
日中の活動レベルを上げて、充実させることが睡眠のリズムを作る上でも重要となり、セロトニン活性に正のスパイラルを生みます。
日中の活動レベルを上げるということは、一日中引きこもったり、ずっとゲームやテレビという環境ではなく、
- 日の光をしっかり浴び、歩行、ランニングなど上肢強調運動をしっかりすること(locomotion)
- 頭もよく使うこと
が重要です。
とくに手足を使った運動をしっかりすることが、セロトニン活性に重要であると言われています。
赤ちゃんのときに、ハイハイをきちんとしたか、していない場合はそれを促すことが重要であるのも同じ理由です。
上のように、歩行、ランニングなどの上肢強調運動が睡眠覚醒レベルを安定させることにより、ドーパミン神経系の異常を改善させ、チック症の軽快に繋がると言われています1)。
またセロトニン活性を上げることが、睡眠中のレム睡眠、ノンレム睡眠の切り替えをスムーズにするといわれています。
つまり、睡眠の質もあがるということです。
チック症には初期の治療、対応が重要
チック症には初期の治療や対応が重要であり、そこが不適切であると、10代後半以降にも症状が残ったり、併発症が残ることにもつながります。
初期の治療・対応というのは何も薬物治療だけではなく、親が積極的に関与していくことで、「環境を整える」ということが重要なのです。
チック症というと薬物の観点からドーパミン系ばかりが取り上げられますが、ドーパミン系の発達は遺伝に左右され、環境では変えることができないと言われています。
一方で、セロトニン系の発達には「環境因子」が非常に重要なのです。
チック症を持つ子供に限ったことではありません。
- 規則正しい生活をする・早寝早起きをする。
- 日中にしっかり歩く。
という一見当たり前のことが、セロトニン系の活性を促すために、そして大脳の発達に重要なのです。
参考文献
チックをする子にはわけがある1)P123